全てのビジネスにデジタル化のきっかけを

特集

【DX推進人】㈱IT経営ワークス 本間卓哉氏 #3<完>



第3回では本間卓哉氏がこれまで手掛けた業務DXについて、そして今後のビジョンについて話を伺った。


第1回はこちら【DX推進人】㈱IT経営ワークス 本間卓哉氏 #1

第2回はこちら【DX推進人】㈱IT経営ワークス 本間卓哉氏 #2


老舗町工場の「ザ・紙」管理からデジタルシフトして起きたこと



ーこれまで本間さんが支援したDX推進で印象に残っているものがあれば教えてください。


小規模であるほど目に見えた効果や変化が出やすいものだと思っています。規模が大きくなると、型が出来上がってしまっているケースが多いので、なかなか変革は難しいですね。

私の中で特に印象に残っている事例は二つあります。

一つ目は町工場さんでの事例です。創業から50年程経過している老舗です。紙のギフト箱を作っている事業者でした。草履の箱をメインでつくる事業者で、基本的には決まった取引先から定期的に注文が来ていたようです。しかし昨今では受注が伸び悩み、仕事が減少傾向にありました。創業当初と今とでは市場に出回る草履の量がそもそも減っているので、今までと同じ形での営業活動では難しい状況でした。業績が厳しい中で、ちょうど先代から二代目に代替わりをするタイミングで二代目の社長と私が出会うきっかけがあり、お付き合いが始まりました。




まず社内の話で言えば、全部が紙での処理でした。見積書や納品書、請求書というように何もかもが紙。顧客リストも紙、もう「ザ・紙」管理という状況でした。「こんな会社がまだあるんだ???」と思うくらい原始的でした(笑)。そのような状況からのスタートでしたが、社内の仕組みをどのように変えていったかというと、最初に取り組んだのはデジタル化でした。紙で管理されている情報のほとんどがデジタル化できる内容のものでした。ちょうどクラウド会計システムが出てきたタイミングだったので、請求書や見積書も紙ではなく、全てデジタル化させていきました。顧客リストもまずはExcelでリスト化するところからはじめ、最終的にはCRMを導入し、そこに情報をストックしていきました。社内全体のデジタル化に取り組むことにより、経理や総務といった間接部門のスタッフの業務が大幅に圧縮されました。別に人員を削りたいわけではありませんでしたが、それだけやることが従来のアナログ処理ではあったということになります。現金出納帳の手書き処理等をはじめ、かなりの業務が必要ではなくなり、スリム化されました。


その上で、更に売上をあげるための取り組みを行いました。例えば、企業のホームページです。従来もホームページはあったのですが、本当に持っていただけの状態でした。そこをきちんとリブランディングし、強みを設けて、ホームページから案件を受注できるような仕組みを構築しました。具体的には50年来の技術を持った老舗ならではのオリジナルギフト箱を新たな売りとしました。ギフト箱は特殊な技術や知見がないと製造できないことも多いので、小ロットでも作れる高級感のある箱屋さんとして製品を製造販売する形を取りました。大量生産で安く販売している規格品の他社製品に対抗するのではなく、単価がある程度確保でき、オリジナリティのある箱作りができるサービスとなりました。それをホームページでリリースしたところ、ホームページからの問い合わせが大幅に増えました


撮影場所: IT顧問化協会Air-Era/写真撮影: Hisabori Shunsuke


ーすごいですね。目に見えて変わっている事例ですね。


本当に目に見えて変わりましたね。最終的に売り上げは過去の300%、3倍以上の売上を達成しました。これにより、業績は文字通り、V字回復できました。

しかし、本当に注目すべき点は、売上が3倍となり、3倍の生産や営業活動をしなければならない状況下で、人員を一切増員する必要がなかったということです。これは先にお話したデジタル化推進による業務効率化に取り組んだことによって、本来のリソースを割くべき場所に割くことができたということです。これが本当の業務DXのあるべき形ではないかと思います。減らすことが目的ではなく、自動化できることは自動化する。要するに人を増やさずに、業績をどこまで上げることに取り組むことができるかが重要なのではないでしょうか。特に中小企業には大切なことだと考えています。

もう少し付け加えておくと、業績向上には顧客リストのデータベース化も非常に効果的でした。いつ、どのお客さんが何をオーダーしたかをストックし、更に予め商品の在庫がなくなる時期を聞いておき、情報記録しておくことで、在庫が少なくなる頃に「そろそろ在庫状況どうですか?」と声をかけることができるようになりました。これによって定期的なリピート注文をとっていくことができます。何もアプローチをしないと、在庫がなくなってもリピート注文してこないこともあります。前回の注文から期間が空く場合、お客様側で今回は他のところに依頼しようか」となったり、「この前どこにオーダーしたんだっけ?」というようなことにもなりかねません。そうなる前にきちんとアプローチしておくことで、他社と比較する必要性がなくなり、スムーズな受注につなげることができます。


ーいわゆる攻めの営業ですね。


そうですね。余計な営業コストをかけずにリピートが取れることは大きいですね。営業マンを増員するのではなく、ホームページが営業マンとして活動してくれる。まさに仕組み作りですね。印象に残っている事例です。



現状分析をすることで初めて見えてくる実態。改善に前向きなマインドが変革には必要



二つめの事例では、比較的規模の大きい企業でした。グループ会社が何十社もあるような会社です。コロナ禍に入り、そろそろDXに取り組まなければならないという企業の動きがあったようですが、実際には社内に知見を持っている人がいないということでご相談を頂きました。これまでも比較的規模の大きな企業をご支援させて頂きましたが、大きな企業でも世の中のトレンドをきちんととらえて、取り入れることができていないことが少なくありません。実際、最先端のメタバースやVRといった領域を新規事業で扱っていく動きをしている一方で、使用している業務システムの現状を正しく理解できていないという状況がありました。昭和から変わっていないような状況ですね。現場を見て、第三者として現状をレポートしてほしいというご要望でした。


ーいわゆるコンサルタントの立場からの助言ですね。


そうですね。紙がとにかく全体的に多いことはわかっていたようですが、実際現状分析をしてみると、一部のシステムを維持するために、数百万円のコストが掛かっていたり、手探りでRPAの導入がされており、一部の業務でしか活用されておらず数十万円のコストを払って、ほんのわずかな業務しか効率化されていない、基幹システムがかなり陳腐化している等、本当に様々な課題が見えてきました。いろいろとキャッチアップさせていただき、単なるレポートだけではなくて現実的にどのような改善が必要かを提案させていただきました。実際、その提案を受け入れて頂き、チャレンジしてくれたことは大きかったです。例えば今まではExcelで管理していたもので、データが溜まらないような仕組みだった部分を、kintoneに落とし込んでみたらどうかという提案をしたところ、実際にkintoneの導入を試してみていただき、そこに対してどういう活用が良いかをアドバイスをしていくと、能力の高いメンバーが揃っている会社だったので、より効果的な活用に向けた動きが出てきたりしました。活用に向けた取り組みが積極的に起こることで、定着が進んでいくのを間近で見ることができ、企業文化がとても重要だと感じました。知識や知見がなくても変わっていく意思があり、変えるべきだよねというマインドをもって前向きに取り組むことができるかどうかが大切ですね。そういった企業文化があれば変わることができますし、柔軟性の有無で変化の度合いが変わると考えています。



今はまだ見えていない情報が見えるようになる。ビッグデータから生まれる新たな文化



ー貴重な事例の共有をありがとうございました。

それでは、「DXのその先には一体何があるのか?」本間さんの考えをお聞かせ頂けますか?


DXを一つの側面からみると、やはりデータの蓄積だと思っています。そして、その蓄積したデータに対して、新たなソリューションが生まれる気がしています。どのようなソリューションかというと、AIの技術が発展し、データを取り込めばビッグデータから最適解を導いてくれるようなものかもしれません。他にもまた何か新たな文化が生まれてくるのではないかと考えています。



撮影場所: IT顧問化協会Air-Era/写真撮影: Hisabori Shunsuke

ーまた次の産業革命が起こるということでしょうか。


可能性は十分あると思います。例えば、経費精算ツールにより、経費データが蓄積されます。その蓄積されたデータを活用し、パーソナライズ化されているデータとその人が扱っている経費データを活用することで、様々な分析をおこなうことができるかもしれません。どんな経費を使う傾向にあるのか、逆に使っていないか等、様々な情報がわかってくるので、そこに対して私たちの生活の仕方や食文化等にも何らかの影響はでてくるかもしれません。だから、見えていない情報が見えるようになる凄さや怖さ、楽しさ、いろいろあると思いますが、DXのその先には、このデータが溜まっていく、そのデータがどのように活用されるかがある意味とても楽しみであり脅威でもあるといった感覚を私は持っています。

ーありがとうございます。最後に本間さんのビジョンをお聞かせください。

私の一つのビジョンで変わらず言い続けていることがあります。「人×IT=笑顔」ですね。とにかくITはツールがあっても、それは手段でしかないので、それを使う人がいないといけません。使う人が使いこなせてハッピーになる状態をいかに作り出せるかに今後も取り組んでいきます。



ー本間さん、ありがとうございました。


撮影場所: IT顧問化協会Air-Era/写真撮影: Hisabori Shunsuke

本間 卓哉 (ホンマ タクヤ) 株式会社IT経営ワークス

1981年秋田県生まれ。株式会社IT経営ワークス代表取締役、一般社団法人IT顧問化協会 代表理事など。使命は「人×IT=笑顔に」。

企業に向けて、その企業に適切なITツールの選定から導入・サポート、ウェブマーケティング支援までを担うITの総合専門機関として、「IT顧問サービス」を主軸に、数多くの企業で業務効率化と業績アップを実現。これらのノウハウを共有し、より多くの企業での活用促進を図るために、2015年にIT顧問化協会(eCIO)を発足。「経営にITを活かし、企業利益を上げる架け橋に」を理念に、専門家向けにeCIO認定講座を開始。これにより、IT活用の専門家ネットワークを形成し、IT活用・デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を望む全国の企業からの相談を受け、中立的な立場で的確なご支援ができる体制を構築している。2020年には、経済産業省より「情報処理支援機関(スマートSMEサポーター)」として認定を受ける。さらに2022年には、中小企業庁の事業環境変化対応型支援(デジタル化診断)事業の委員も務める。著書に『売上が上がるバックオフィス最適化マップ』『全社員生産性10倍計画』(いずれもクロスメディア・パブリッシング)などがある。





取材協力:本間卓哉 (株式会社IT経営ワークス)

監修協力:株式会社IT経営ワークス

取材:久堀駿介 (株式会社cloverS)

編集:CLSデジタルラボ (株式会社cloverS)

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