第3回では中小企業が抱える基幹システム周りの実情と井川氏が考えるDX、そしてDX推進の鍵についてお話を伺った。
ベンダーインタビュー2022年6月号/株式会社フリップロジック井川氏 #1
ベンダーインタビュー2022年6月号/株式会社フリップロジック井川氏 #2
単なる効率化ではなく、生産性の向上を図り、利益を生むような手助けができるサービスの提供
撮影場所: 株式会社フリップロジック本社/写真撮影: Hisabori Shunsuke
——株式会社フリップロジックやflamの社会的役割はどのようにあるとお考えでしょうか?
我々の提供する主なサービスがflamなので、flam中心のお話になります。flamの導入先のお客様は基本的に企業です。企業の業務を支えるためのシステムとして、flamがあると考えています。その意味において、バックオフィスをスムーズ且つ効率的に行えるようなサービスとして提供し続けることが我々に求められるところであり、単なる効率化ではなく、お客様が生産性の向上を図ることができ、それにより、利益を生むような仕掛けをflamによって何らかの形で手助けができるようなサービスであることが必要だと考えています。そういったサービスを提供することに株式会社フリップロジックの社会的な存在意義があると思います。
行政の介入から、デジタル化への待ったなしの状況が目前に。どこから手をつけるべきかに悩む企業も少なくない
——ありがとうございます。中小企業の基幹システムや販売管理事情で井川さんが感じることがあれば教えてください。
様々なお客様からお問い合わせや相談を頂く中で、その企業の規模によって課題感が異なっていると感じます。売り上げがしっかりある会社様でも、未だに管理がエクセル中心というお客様も相当数いらっしゃいます。また、旧いシステムを使用しており既にリースアップで保守契約も終わっており、今の状態で何かトラブルが起きると経営上大きな問題が発生するようなシステムを引き続き使っている、というケースもあります。いずれの場合でも何らかの形で売上・請求・入金処理は行われており、会計の元情報となる管理は当然行われているわけですが、しっかりとシステム化されていないケースが多くあるという印象です。
ただ、昨今では適格請求書(インボイス制度)であったり、電子帳簿保存法への対応であったり、行政が”次はこのようにやりなさい”という中小企業に介入するような動きがあります。いずれも、どうしてもデジタル化しないと対応が難しい状況になりつつあります。
法的な縛りが出始め、対応を迫られる中小企業が慌ててデジタル化に進もうとしているような状況ではないでしょうか。
しかし、どこから手をつけて良いか分からない。というのが中小企業の本音だと思います。
「今までのやり方」が一番の課題
——中小企業のバックオフィスの課題感はどのようなところにあるとお考えでしょうか。
このテーマの回答はなかなか難しいのです。中小企業の課題は、本当にお客様によって様々です。業種業態、取引先との関係によっても変わるものだと思います。
これまで課題として提示された例では、「在庫を管理したい」「パンチミスを無くしたい」「ペーパーレス化に取り組みたい」などはありますが、「自社の〇〇に関する課題を解決したい」と、明確に示される事はあまり多くはありませんでした。
解決すべき課題を明確に持っておられ、自分たちでシステムを検証し、自力でその課題をクリアできるのであれば全く問題ありませんが、もし、従来どおりのやり方がトレースできればそれで良い。と、お考えの場合はそこが課題かもしれませんね。
システムを導入する理由は千差万別で、導入時の費用や維持管理のコスト以外にも、「時短」「業務効率」「ペーパーレス化」「BCP対策」「テレワーク」「データ連携」等、目的は色々あると思います。
これらの目的を明確化するには、まず現状分析と把握が必要で、これらどれを取っても付随する業務の検証と、対策するために関連部署や取引先との調整が必要となります。
どれ一つとっても業務改善につながる内容だと思うのですが、そこが明確に出ていない。という事の方が問題かもしれません。ただ、我々ベンダーとしては、抱えておられる課題が明確であれば、システム目線で何らかのご提案も可能だと思います。是非遠慮なくご相談頂きたい所です。
コスト削減のための新たなデジタル化が、結局は従来のやり方を踏襲することで多くのコストを発生させている
flamを選択頂くお客様の中には、初期費用0円、月額9300円というコスト負担の小ささからご相談を頂くケースも多くあります。また、flamはお客様のご要望に応じて柔軟にカスタマイズもお請けしております。
例えば、「ここにある機能を追加したい」という相談があったとします。その際要求された事が、実はflamの他のページで同じ様な事ができる場合があります。当然、その事をお伝えするのですが、お客様曰く、「これまでのシステムではこのページで操作できていた。そこからの操作に慣れているからどうしてもこのページで実装してもらいたい」というケースがあります。
結果、お客様からするとシステムを導入するコストに加え、カスタマイズを行うコスト、カスタマイズのために打ち合わせをする時間的コスト、それを使えるように社内教育する為のコストなど、多くのコストが発生します。
そもそも、コストを削減する事も目的だったのでは?と思うのですが、従来のやり方に囚われすぎることによって、自らコストを上げてしまうケースは少なくはありません。
今までのやり方に慣れているのは理解できますが、別の運用を提案された場合、本当にその運用ではできないのか検討を重ねたり、標準機能であればトライアルで実験的に運用して、もし特に問題がなければ、実は最小限度のコスト導入が実現する場合もあります。
取引先に向けては、「この形式の伝票しか受け取ってもらえない」ということがあります。その伝票について、お取引先様に「今回このように変更になりますが、どうでしょう?」と交渉をしてみませんか?と提案をさせて頂くことがあります。交渉によりOKをもらえるケースもありましたね。
ひと手間を惜しまずに検討することによって解決の糸口が見えることもある
得意先との交渉や、違うやり方を社内検討する等、その手間をなぜ惜しむのか?というと、単に面倒くさいか、またはその手間が無駄(周りは変わらない)と思っておられるかのどちらかではないでしょうか。
そのひと手間をカスタマイズによってコストに切り替えようとする。結果、導入費用が重くなり、システム化することを断念する。というパターンもあります。ひと手間を惜しまずにぜひいろいろご検討いただけたらなと思います。
お客様の現場でどのような課題が存在するかにもよりますが、今までやっていた事(慣例)を疑うという所から始めると、けっこう解決の糸口が見えてくるんじゃないかなと思います。
各種情報のデータベース化とデータの分析による商品開発と販売方法の見直し
撮影場所: 株式会社フリップロジック本社/写真撮影: Hisabori Shunsuke
——昨今DXというワードが独り歩きしてるような気がしていますが、井川さんの考えるDXとは何でしょうか?
DXというワードが独り歩きしているというのは僕も感じています。難しいですよねDX。単なるIT化との切り分けがとても難しいところだと思います。
実は、このDXが独り歩きしている状況は、かつて「クラウド」が独り歩きしたときと同じような印象を持っています。その時も、クラウドの定義は非常にあいまいで、クラウドコンピューティングとは「概念」を指すものでした。現在のDXはどうなのかを考えると、「DX=IT化ですよ」という印象を与えているサービスも数多く存在しています。
DXを推進するために、このサービスを導入しましょうといった動きですね。DXが騒ぎ出されたのは経産省が2018年頃発表したDXレポートあたりからだと思いますが、今や、テレビコマーシャルでもDXというワードを使っているベンダーさんが多くいます。
DXの本当の意味を考えると、「レガシーシステムからの脱却」と「デジタル技術を活用してビジネス全体を根底から大きく変えなさい」この二点だと考えます。こんな抽象的な話をシステムに置き換えるのはとても難しいのではないでしょうか。
「レガシーシステムからの脱却」を考えると、そのシステムが導入されたのは古いもので20~30年前。当時の技術では最先端だったかもしれませんが、ハードウェアも開発言語も今の若いエンジニアにはメンテナンスも解析もままならない状況です。
また、導入時の仕様書等ドキュメントも残っていないケースも多くある事でしょうね。これを今の最新の技術で再構築するのであれば、現行システムの解析から始める必要があり、相当な時間と費用が必要となってきます。
その結果、「2025年には古いアーキテクチャの対応スキルを持ったエンジニアが引退していなくなり。危機的な状況ですよ。」というのが2025年の崖です。
しかし、そんな古いレガシーシステムを導入してる中小企業はその中でも比較的規模の大きい会社だと思います。逆に、そこまで大きくない企業、100人未満の中小企業の場合は、おそらく今使っているシステムはWindowsサーバーをベースにした、クラサバシステムというパターンが多いと思います。その場合、まだ移行がしやすいですね。
今回のDXレポートでは前者のようなレガシーシステムを指していると考えています。
レガシーシステムからの脱却は、いわゆる大規模システムを所有している企業は、しっかりとIT投資をし、きちんと脱却してくださいという考え方なので「中小企業」のテーマから少し外れるのではないかと思います。
2つ目の「デジタル技術を活用してビジネス全体を根底から大きく変えなさい」という所を考えると、顧客や社会のニーズを分析し、自社の製品やサービスを変革したり、新しいビジネスモデルを創出したり、自社の業務を見直すことで、その企業文化や風土を変えましょう。
それらデジタル技術を駆使し、企業としての優位性を高めましょう。
というようなことが謳われています。
これらを我々視点で少し咀嚼して考えると、販売データやマーケティングデータについてデータベース化を進め、蓄積されたデータを基に顧客のニーズを分析しましょう。それらのニーズに基づき新たな商品開発や新たなサービスを検討してください。または、販売方法の見直しを考えてください。
と言い換える事が出来るかと思います。
そうなると、今まで手売りでやってきた商いを、ネット販売に進出するのもその一つと言えるかと思います。ただ、この中でマーケティング分野等についてはAIの活用は無視できません。
様々なユーザーニーズをビッグデータから解析するとなると、やはりAIの力は不可欠ですよね。例えば、CRMとAIが連携し、市場の動向を生産計画に落とし込む。なんて事ももう目の前の話になってきているんだと思います。
我々は、システムベンダーですので企業様のビジネスモデル創生にまで言及することはできませんが、ITツールを駆使して業務効率化を推進するためのお手伝いは可能だと考えています。
企業にとって適切なクラウドツールを選択頂き、それらをうまく連携させて業務を自動化することができれば業務効率化も図ることができ、その先には、生産性を高めることも可能であると思います。
例えば、我々の周りですと、各種デジタル化では、flamをはじめとする販売管理システムや会計システムが該当します。その他ITツールでは、例えば日ごろから使用しているオンラインミーティングのシステム、メールやチャット、SNS、カレンダー、社内外のタスク管理、CRMなど…効率化のためのツールが多く存在します。
CRMと販売管理を連携させたり、販売管理と会計システムを結びつけること等、目的に応じてそれぞれ最適なものを選び、組み合わせることによってERP化していく。
その様な取り組みで中小企業のデジタルトランスフォーメーションはどんどん進んでいくのではないかと考えています。
ただ、いずれの場合もITツールを導入する事は目的ではなくあくまでも手段です。
自社にとって「デジタル技術を活用してビジネス全体を根底から大きく変えなさい」と言う考え方がベースである必要がありますね。
撮影場所: 株式会社フリップロジック本社/写真撮影: Hisabori Shunsuke
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