第三週では高岡氏が考えるDXやDXを推進する鍵について話を伺った。
ベンダーインタビュー2022年4月号/freee株式会社高岡氏 #1
ベンダーインタビュー2022年4月号/freee株式会社高岡氏 #2
情報がデータ化され、適切な形で管理移送できる状態
——近年DXが広く謳われるようになってきましたが、高岡さんが考えるDXとはどのようなものでしょうか?
何故、今更言葉を変えたのかという印象があります。ありきたりな話ですが、”紙がなくなること”は一つだと思います。そもそもの情報自体がデータ化されていること、そしてデータ化された上で、それが適切な形で管理、移送できる状態になっていることだと考えています。抽象度が高い話ですが、データ化されているだけで良ければ、「Excelでも良いのでは?」という見方があります。でもExcelの場合、最適なソリューションではないことがほとんどです。少し前の話であれば、旧いバージョンのExcelだと一度に同時に複数の人が編集や更新ができないといった課題がありました。他にも、社内のサーバーに保管しているデータに社外からアクセスできない等の様々な課題を抱えており、決して最適とは言えませんでした。例えば請求書をExcelで作ることはできます。データといえばデータですが、これが適切な形で移送できるかという視点では、私は適切だとは思いません。一方、売上・請求情報をkintone(データベースツール)で管理している場合であれば、API連携を使って『freee会計』に情報を連携することができます。理想は全部同じデータベース上で処理されることだと思いますが、きちんと連携し、繋ぎ込みができている状態であれば、比較的最適な状態だと言えるのではないでしょうか。kintoneとfreeeの連携の場合はマスターデータの相互連携にも対応しているので、片方のマスターを変更したら、もう片方のシステムにも更新が反映されるような仕組みを構築することができます。同じデータベースのテーブルの上で管理されている状態に近い形が実現可能です。そのような最適な形が提供できていると感じています。テクノロジーが進化することで、選択肢は変わってくるとは思いますが、最適を考え、複数の選択肢から選べていることでIT化が正しくなされている状態が私の考えるDXです。
DXを推進の鍵はタイミング
——DXを推進していく鍵はどこにあると思いますか?
トリガーのようなものをあげるとざっくりした回答にはなりますが、私はタイミングがすごく大事かなと思います。
——タイミングですか?
DX推進から若干外れますが、ベンチャーのテクノロジーは世の中の状況を踏まえて早すぎても浸透しないという課題があります。「将来AIが普及し、もっと全ての物がインターネットと繋がっている状態になる」といった抽象的な予測は誰でも言える事です。一方で3年後、5年後が具体的にどのような社会になっているかを正確に予測し、適切なタイミングでサービスやプロダクトをマーケットインすることはとても難しいことです。話を戻すと、企業がDXを推進することは、「いつでもできることではない」と思います。必ず何かトリガーとなるペインが発生する、あるいは推進者が出てくる、こういったことが起きているのではないでしょうか。そのタイミングを見逃さずに、そのトリガーを爆発させて、ムーブメントを起こすことがとても大事なことだと思います。
——DX推進にはきっかけが必要ということでしょうか?
「きっかけを見逃さずに育てることができるか」が重要です。結局きっかけが必要なのですが、例えば「freeeっていうツールがすごく世の中で流行ってるらしいぞ」というような情報が社内で流れた時に、決裁や導入の権限を持っている人にその情報が正しく伝わることも一つのきっかけになりうると思います。そこを見逃さないことが必要です。
きっかけを見逃さない為には周囲にいるパートナー存在が重要
——きっかけを見逃さないためにはどのようなことが大切なのでしょうか?
そこが難しいんですよね。大前提として、社内に変えたい意志を持っている人がいなければ始まりません。そういう意味で言うと、ちょっと都合主義的な話の繋がりになりますが、伴走支援しているアドバイザーがきっかけになることや、身近なSIer等が鍵になるのかなと思っています。トリガーになるかもしれないタイミングで最適なソリューションとそれを定着させるまでのHOWを提供してあげることさえできれば、それを機に大きく前進するのではないでしょうか。ベンダーやメーカー側だけできっかけを生み出すことは難しいので、お客様の界隈にいるパートナーという存在が、重要なポイントになってくるのではと思います。
——確かに、身近にいる社外の方々がきっかけを持ち込むことは重要ですね。ただ一方でITの専門家ではない方々が十分なITの最適解を持っているとは限らないという課題もあるかもしれません。
それはまさに我々も考えていることです。高慢な話かもしれませんが、最終的には、freeeを使ってもらうことで最適解に自然と繋がってくるような世界観を目指しています。
——freeeが入り口になって最適解に辿り着くということでしょうか?
そうですね。各領域毎に、freeeに限らず最適なソリューションは必ずあるはずなので、freeeが様々なソリューションと今後正しい形で繋ぎ込みができるオープンプラットフォームになれば、ユーザーのニーズに幅広く応えることができると考えています。そこを目指したいと思います。
撮影場所: freee株式会社本社会議室/写真撮影: Hisabori Shunsuke
freeeは比較的安価でユーザーライクなERP。進化し続けるプロダクト
——それではfreeeのプロダクトの特徴や他社製品と比べて優れている部分をお聞かせください。
ERPのソリューションって世の中に結構ありますが、freeeの本当に良いところは、それが比較的安価に入手でき、かつユーザーライクなインターフェースを備えていることです。freeeのシングルインプットの考え方がとても好きです。見積書を一回作れば、請求書もワンクリックで作成でき、同じ情報を二度入力する必要がない。また請求書を発行した際に、裏側で売掛の取引(仕訳)処理が自動的に行われる。売掛の取引の中には期日情報もあり、今後の入金予定が管理できる等の機能が備わっています。買掛、未払の取引を元に今後支払わなければいけない予定の金額が自然と整理されています。無駄のないフローが考えられており、かつfreeeの中で実現されていることが強みだと思います。このような価値はわかりにくいものだとユーザーに届かないので、「freeeにはこういう機能があります」と伝えるだけではなく、freeeの価値を届け切ることを日々重視しています。オンプレミス前提で元々構築されているサービスの場合、クラウド化するとどうしても従来の構造が足を引っ張ってしまい、クラウドとして最適ではないことがあります。しかし、freeeは最初からクラウド一本でやっているので、クラウドに最適化されたネイティブなSaaSだと言えます。どの機能がどれぐらい使われているか、どういう頻度で使われているかをビッグデータに集約しており、開発の自己満足で終わらない仕組みを構築しています。機能を開発するだけでなく、ちゃんと使われているか、使われていなければどこにボトルネックがあるのかを検証しています。本当ユーザーにとって価値がない機能だったのか、それとも操作する上での動線が悪いのか、どうすれば使ってもらえるようになるのかを様々な角度で検証し、使ってもらえる機能を届けるところまで、やり切る努力を全社的に取り組んでいます。私たちが提供するfreeeは進化し続けるプロダクトという点が一番大きな強みかもしれません。プロダクト自体は年間で600〜700件ぐらいのアップデートが行われています。これは営業日換算すると1日2個ペースで、何かしらの改善がされているということです。とんでもないスピードだなと思っています。もちろんアップデート情報のキャッチアップは結構つらいんですけど。
freee株式会社提供
情報のキャッチアップのしやすい体制を社内に構築
——情報のキャッチアップは大変ですよね。アップデート情報のキャッチアップはどのような仕組みで社内共有されるのでしょうか?
毎日勉強会等があります。あとはfreeeでは、そもそもユーザー様のお客様規模感に応じて担当部署が分かれており、更に『freee会計』と『freee人事労務』のプロダクト毎に担当が異なるので、人事労務のニーズの場合は専門部隊にて対応するケースが少なくありません。専門特化させていくことで、お客様のニーズをしっかり捉えることができ、要望に応えられると考えています。ニッチなプロダクトや機能に関しては専門の担当者を置いています。その担当者から勉強会等を通じて、社内に浸透させる動きをしています。
——多くのベンダーさんではまだまだ標準的なマニュアルやチュートリアル等の整備が課題ということをお聞きしますが、そのあたりはいかがでしょうか?
プロダクトの進化である程度はまかなえると思います。最近だとチュートリアルが出るようになるなどの改善がされています。最初にアクセスをした際にチュートリアルが表示がされて画面の誘導に従って実際に操作ができるような形です。「次にここを押してください」という誘導機能が各機能に搭載されており、操作しながら学べるような状態が整いつつあります。更に細かい機能や複雑な機能については動画マニュアル等を整備しています。年末調整であればこれを見ればわかりやすい完結型のマニュアルをリリースする等、様々な工夫を行っています。こうすれば絶対に大丈夫という正解はありませんが、ユーザー様がより使いやすくするための仮説検証に日々取り組んでいます。改善と向き合う覚悟とそれを実際に推進する実行力があります。freeeだとマニュアルやチュートリアルを整備するための専門チームがあるので、そこを中心に一生懸命取り組んでいます。
撮影場所: freee株式会社本社会議室/写真撮影: Hisabori Shunsuke
ワークフローに求められることは会計連携
——高岡さんのイチオシのプロダクトやfreeeならではの機能があれば教えてください。
まだまだ足りない機能や駄目なところがいっぱいあって可愛いなと思うことが多いです(笑)。私の場合、前職のキャリアが起因していることもありますが、会計のワークフロー機能が好きです。ワークフローだけを切り出したプロダクトを使っている会社も多い中で、前職時代に、グループウェア上のワークフローが会計に連携できるかどうかを求められるニーズが多くありました。実際、経費精算等は事前申請と精算の稟議に加え、精算後に会計にデータ連携させることが求められていました。
データ活用のあるべき姿を考えたfreeeの構造
——確かに『freee会計』の場合、経費精算システムも備わった会計プラットフォームといった印象です。あとレポート機能の豊富さ、特に資金繰りのレポートだとか、そういう分析機能が非常に長けたツールだと感じています。
ありがとうございます。おっしゃる通りです。ちゃんとERPだなと感じる点です。データをワンインプットして、そこからデータが移送されることで最終的に試算表になる仕組みとなっています。freeeの場合だと試算表の数字を遡っていくと一番最初のインプット情報に辿り着きます。試算表の数字をクリックすると、仕訳取引の内訳が出てきます。取引の詳細を開いたら関連する稟議が表示されます。精算稟議のワークフローが表示されるのでそれをクリックすると別タブが開き、中身が確認できる形になっています。きちんと繋がっているのが良いですね。
freee株式会社提供
——データ活用に重きを置いてますね。freeeの世界観ですね。
これは本当に久堀さんにしか共感してもらえないことかもしれませんが・・(笑)。データベース内でマスターデータが複製されるのは正直、気持ち悪いと感じます。一つの主になるマスターがあり、それに紐づいて使われている動線が一番きれいで無駄がない形だと思っています。それを正しく実行できているのがfreeeなのかなと考えています。
セールスが絶対的な信頼を置く開発
——freeeの統合型ERPだからこそ、できることって多そうですね。
ERPって言うだけは簡単なのですが、本質的な部分でERPを目指しているというのはやはりfreeeならではの特徴だと思います。入社して感じたことは開発がとてもしっかりしているなということです。また、開発がオープンでチャレンジングなのも特徴的です(不具合が出てご迷惑をおかけする機会とかもあるのですが・・)。開発がしっかり表に出て、今どのような開発に取り組んでいて、何が難しくて、何を達成したのか、できていないことは何なのかをレポート化して共有してくれます。freeeでは週に1度全社ミーティングを通して、アップデート情報をしっかり届けてくれるのでとても安心感があります。前職時代は自社のプロダクトに対して強い課題感を持っていました。日々自社製品の改善計画情報をチェックしていました。freee株式会社に入社してからは改善計画情報はそれほど気にならなくなりました。おそらく開発に対しての信頼があるからだと思います。おこがましいかもしれませんが、変えに行きたいと思うほど、前職では悩んでいたのですが、そんな風に感じさせないくらいしっかりやってくれている安心感があります。定量的に評価して常にブラッシュアップを掛けているので、本当にすごいなと思っています。
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