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特集

ベンダーインタビュー2022年4月号/freee株式会社高岡氏 #2

 

第二週ではfreee株式会社が目指しているビジョンやfreee株式会社のサービス、そして中小企業のバックオフィスが抱える課題について話を伺った。

 

ベンダーインタビュー2022年4月号/freee株式会社高岡氏 #1

 

freeeのマジ価値指針とは「本質的な価値があること」

 

——では高岡さんがfreee株式会社のここがすごい!と感じるポイントがあれば教えてください。

先ほど会社のここはすごいという部分については結構話をしてしまった気がします。少し文脈を変えるとfreee用語で、”freeeのマジ価値指針”というものがあります。”マジ価値”というのは「マジで価値があること」、本質的な価値があることです。マジ価値二大指針がありまして、「社会の進化を担う責任感」「ムーブメント型チーム」という言葉です。「社会の進行を担う責任感」を持って働くとは、何か現状の社会のあり方に対してそれをフィットさせていくだけではないということになります。例えば最近の例でいうと電子帳簿保存法の改正がありました。実は改正前はあまり実用的な法律ではありませんでした。「運用できる法律にしていくべき」という考えで、ロビー活動のチームが発足されました。どのような形が社会にとってベストなのかを定義して、国の機関や分科会との意見交換会等にアプローチをし、提案をしていく活動等を行っていました。社会を進化させることに対して、しっかりコミットしているのが素晴らしいなと感じています。

 

撮影場所: freee株式会社本社会議室/写真撮影: Hisabori Shunsuke

 

寄り添うべきところは寄り添いながら、目指すべきところをしっかりと主張する

 

——ほとんどの組織がおそらく社会の変化に順応することが優先され、何か変えていく側に立つことができる企業はごく一部ではないでしょうか。「社会を進化させることにコミットする」が社風やサービスにも現れているのですね。

そうですね。それが押し付けにならないように意識しています。個人的にも会社としても、寄り添わなければいけないものだと思っています。とはいえ、目指したいところはしっかり意見を出していくという考え方ですね。最近では、電子帳簿保存法の他に電子署名がホットな話題ですね。クラウドサインを提供している弁護士ドットコムさん等も積極的にロビー活動に取り組まれており、その活動にfreee株式会社も参加しています。

社内でもずっと電子署名の活用に取り組んでいます。現在、物理的な書面での押印が必要な場合は、どんなに細かいものであったとしても代表まで決裁を取りに行かないと押印ができない仕組みとなっています。押印しなければいけない契約書がまだ一部で残っている一方、基本的には「もう電子署名でできるよね、電子でやっていくべきだよね」という観点から実際に押印ができるのは代表のみというルールになっています。それに取り組み始めてから、現在は紙での契約の取り交わしは全体の契約の5%未満程度まで削減しています。実際のところ現場としてはちょっとやりにくい側面もありますが、組織的にやり切る覚悟がありますね。

 

「スモールビジネスを、世界の主役に。」を実行するためのサービス提供

 

——徹底していますね。ではfreee株式会社だから、あるいはfreeeプロダクトだからできることはどのようにあるとお考えでしょうか?

freeeプロダクトの特徴だと、どうしてもクラウドのERPみたいな話が出てくるかなと思うので、あえてちょっと違う切り口で話をします。freee株式会社が提供するサービスの中に、『freee福利厚生』というものがあります。まだまだ十分に普及してはいないものですが、このサービスの考え方がとてもfreeeらしいなと感じています。『freee福利厚生』は社宅管理サービスです。社宅を社員、従業員に用意している企業はどうしても大企業や中堅企業に偏りがちです。例えば会社が借りているマンションに給料が少ない若手社員を住まわせる制度が一般的です。安価な賃料で住めるという従業員のメリットの他に、従業員個人の節税や会社にとっての経費削減効果があります。50%は給与天引きし、残り50%は会社負担にするというような運用がされていると思いますが、給与から減額してそれを割り当てることで、保険料の等級が下がる効果等があります。保険等級が下がることで、本人が負担する保険料が下がり、会社が負担する保険料の削減もできます。年間で一人あたり、10万円程度の経費削減となります。とはいえ、これは実際には大企業や中堅企業でしか活用できていない制度です。中小企業の場合、賃貸物件を会社単体で一括で借り上げる資金がない、あるいは一戸ずつ細かな契約や解約をする事務コスト負荷が重い、ということ等を理由にスモールビジネスでこの制度を活用するのは難しい実態があります。そこを穴埋めするためのサービスとして『freee福利厚生』があります。ここでも軸になるのは「スモールビジネスを、世界の主役に。」という考え方で、それを実行するためのサービス提供に取り組んでいるのはfreee株式会社ならではだと考えています。

 

本業にフォーカスできる統合型プラットフォームの提供

 

——freee株式会社の社会的役割はどこにあるとお考えですか?

統合型のプラットフォームを作っていくことかなと思っています。そして、統合型プラットフォームを通じて、本業にフォーカスできる環境を整えることです。中小企業のスモールビジネスの皆様が本業にしっかりフォーカスできるよう効率化を実現すること。やらなくて良いことはなるべくシステムで解決することが我々の役割だと考えています。

最近『企業時代』という雑誌をfreee株式会社が発行しました。そこでは様々な経営者を取り上げているのですが、「実績のある人が起業して成功する」ということは比較的少なくないのですが、一般の人が普通に起業し、しっかりと事業を継続ができる世界はfreeeが目指している一つの世界観です。一般の方が起業した際にぶつかる壁に資金繰りが立ち行かない等の問題があると思います。ビジネスモデルそのものに問題があるケースもあるかもしれませんが、「きちんと財務管理さえできていれば、事業が継続できたのに」というようなケースに置いては、freeeのプロダクトが解決できることも多いのではないかと感じます。重要なリソースを割かなくて良いところに関しては僕らのソリューションで解決していきたいと思っています。一つ一つの最適なプロダクトを提供していくことはもちろん必要ですが、最適解として、プラットフォームを提供し、あるべき形で繋がっていく。徐々に輪を広げていくようにつながるプロダクトが増えていくことが必要だと思っています。

 

更に多くのユーザー層に使ってもらうためにはより馴染みやすいプロダクトであることが重要

 

——世の中のニーズが変わっていく中で、これからのfreee株式会社にはどのようなことが求められているとお考えですか?

freee株式会社は設立して10年くらいになります。マーケティングの視点では、これ面白そうなツールだと感じた際に、手を出しやすい層(イノベーター層やアーリーアダプター層)には結構普及してきたなと思っています。一方で、世の中の当たり前にならないと手を出さない層のお客様に、いかに使ってもらうか、今後freee株式会社がチャレンジしていかなければいけないことだと考えています。

freeeは、既存のあり方を大幅に見直す側面があり、それをまず理解してもらえないと使って頂けないことがあります。そういった方々に正しく価値が届くように、より使いやすい機能、馴染みやすい画面構成を用意していくことを求められていると感じています。例えばですが『freee会計』は複式簿記の形式でデータを入力するようなユーザー画面を基本としていません。従来の会計システムに慣れている会計事務所様(アドバイザー)の方々にとっては慣れない画面操作だったりするので、使いやすいようにするにはどういう運用をすべきなのかをしっかりと考えていかなければいけないと思います。

 

撮影場所: freee株式会社本社会議室/写真撮影: Hisabori Shunsuke

人的リソースをはじめとしたリソース不足が中小企業の課題

 

——中小企業のバックオフィスにどのような課題が多いと感じますか?

私はエンドユーザーに対して直接営業する機会が少ないので、アドバイザーの方々を通じた印象ではありますが、十分なリソースがないことが課題だと思います。十分な人材がいなかったり、十分なナレッジを持った人材がいないという点も大きいと感じます。人的リソースに加え、資金やノウハウにもリソース不足があると思います。マンパワーに頼るしかないため、時間も人も足らないという状況に陥りがちではないでしょうか。例えば深い知見や知識をお持ちの方がいれば、複数の手段を比較して「A社のシステムが自社には合うな」、この場合は「B社のシステムとC社のシステムを組み合わせて使うことが効果的」というような最適解を探し、導きだすことができると思います。一方で自分たちで最適解を導き出すことが難しい企業には、トータルで提供できるようなソリューションが求められます。まさにfreeeはそのようなニーズに最適だと考えています。小規模から大規模まで使っていただけるプロダクトなので、お客様の成長に合わせて比較的長く使っていただくことができます。対応できるレンジが小規模から100名規模程度というように限定的な場合、会社が大きくなるにつれてシステムの入れ替えを考える必要が出てきます。伴走できる期間が長いというのはfreeeのプロダクトの強みだと思います

 

freeeプロダクトの最適な利用規模は使い方や使う機能で変わる

 

——freeeのプロダクトを使うのに適した規模というものがあるのでしょうか?

使う機能にもよると思います。給与計算だけなら対応できる規模でも、年末調整まで利用し、全て電子申告しようとすると適さない場合もあります。私の感覚だと、クラウドサービスに求められる応答速度は3秒以内です。freeeの動作はまだまだ遅いと感じています。一部の給与計算の担当者だけが、『freee人事労務』へアクセスして給与計算をし、その後Webの給与明細を全社員に送ることができれば良いといったニーズであれば、比較的幅広く対応できると思います。しかし全従業員が勤怠管理も含めて利用する場合、画面がすぐに表示され、打刻ができる状態が求められます。画面表示に時間がかかると毎日打刻する従業員に負荷がかかってしまいます。給与計算を行う場合も、手入力する項目が多い場合は人数が多いと作業効率が落ちることがあります。使い方や使う機能で適した規模は変わってきます。機能単位で切り分けていけば比較的規模の大きい会社の選択肢に十分なり得ますが、100人から200人規模の会社でも使い方によっては適さない規模となる場合があります。総論でいくと、上限で500人未満ぐらいの規模までが十分にご活用頂ける規模感ではないかと考えています。

 

最適なソリューションに辿り着くための十分な情報が得られていない

 

——中小企業でIT化が進まない要因はどういったところにあるとお考えでしょうか?

論点がスモールビジネスとそうでない企業で分かれる気がします。前職の頃に扱っていたグループウェアでは5人以上から使うことができる製品でしたが、300名以上の規模の会社をメインに営業していました。その規模の会社の場合、お客様が自分達で情報を収集し、どんな製品があるかを知り、ベンダーから直接話を聞くことができています。「3年後のサーバーのリプレイスのタイミングでどのシステムにするべきか」を事前に議論したり、「次のリプレイスのタイミングでクラウドにするべきか」を検討したり、最適なソリューションを自分達で検討し、取り入れることができます。一方で、スモールビジネスではそもそも、多様なソリューションとの接点を作ることが難しいのではと感じています中小企業の多くが、付き合いのある代理店の担当者や出入り業者、例えば複合機メーカーの担当者から情報やソリューションの提供を受けています。しかし、情報に偏りがあったり、そもそも情報自体が少ないことがあります。お客様の状態に合わせて最適なソリューションを提案し、実際に導入するところまで伴走支援できていないケースが多いと思います。

 

大企業向けのシステムを開発ベンダー主導で使い続ける中小企業も少なくない実態

 

——確かに高岡さんのお話にあったようにある一定規模の会社は、情報システム管理部門を自社に置くなど、それなりにノウハウやITリテラシーがある担当者が在籍していますね。自社で情報をキャッチアップできていると感じます。スモールビジネスの場合、窓口になる担当者が経営者だったりするケースも多くあります。出入り業者から会社規模にマッチしていないツールの提案を受けているケースを何度か見かけたことがあります。

 

売りたい物が売りつけられていることは多いですね。それがマイナーなサービスだと開発が進まなかったり、一部のブラウザでしか使えないシステムというようなこともあります。大規模向けのシステムだと、自社に専任を置いて自分たちで開発すれば、自由にカスタマイズができるような製品があります。こういった製品は一定規模があり、専任の開発担当者を置ける企業には大きなメリットがありますが、50名程度の規模の会社で、導入されているケースが過去にありました。社内に専任担当者はおらず、自社での開発ができないため、ベンダーに開発を全て委託しており、コストが大きな負担となっていました。規模に全く適していないシステムを中小企業で利用していることが実際にあります。そうしたケースでは、今更変えられない状態になっていることが少なくありません。

 

 

開発コストをかけた既存システムから脱却できない理由には損切りができない意識がある

 

——自分達でカスタマイズして作り込むようなタイプのシステムは社内に担当者を置いて、なおかつ属人化させないことはとても大きな課題ですね。逆に担当者がいないとシステム会社に膨大な開発費を支払うことになる。開発コストを掛けてきた会社ほど、システムが旧いものであっても更にそこに開発コストをかけてしまう傾向にある気がします。そのような要因はどこにあるとお考えですか?

 

十分に考えられていないのでなかなか一概に言えないことではあります。ただ課金式のサービスモデルと同じ原理かもしれません。ここまでコストをつぎ込んだから当たりが出るまでやめられない、途中で損切りができないということかもしれません。

 

 

新しいソリューションを取り入れることは現状維持にお金を払い続けるよりも多くの痛みが発生する

 

——確かに損切りの意思決定ができないことは大きいかもしれません。それ以上良くするためにずっとお金をつぎ込んできて、今更やめることが難しいと感じるのかもしれませんね。

日本人の性質も根底にあると考えています。現状維持に対する意識が強いのかもしれません。”ペイン”の種類としては、お金を払う痛みは意外とシンプルなことです。お金を払い続けるだけで良いからです。一方で何か別の新しいソリューションを取り入れることは今のあり方を否定し、改善していくことになります。そのため、因数分解をしていくと変えようとしたときの負担の方がお金を払い続けることよりも、圧倒的に多くのペインが存在します

もちろん費用面のコストが発生しますが、その他に要件定義をしなければならない、ベンダーを選定し、関係者に周知して巻き込み、プロジェクトとして動かなければならない。導入後に教育やマニュアルの整備が必要だったりもします。結果的に「とても面倒だからやめておこう」「今のやり方にお金を払い現状を維持しよう」といった解決した体で落ち着いてしまう事が多いのではないでしょうか。

——その現状維持にお金を払い続けることが多くのユーザーにとって楽だということですね。

現状維持する方がやはり楽ですね。そういう考え方を持っている人は多いと思います。人類の歴史に於いて、安全な土地に居続けることを求めたということもあるかもしれません。毎日知らない土地へ行くという行動を繰り返していたら生き残れなかったからかもしれません。

 

ベンダーインタビュー2022年4月号/freee株式会社高岡氏 #3へ続く

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